シビックテック・ラボがコミュニティに関わり続ける理由
今年も、SPAJAMは多くの熱量と創造性に満ちた時間となりました。
まず最初に、参加者・運営の皆さまに感謝を申し上げます。
今回は都合により午後からの参加となり、また例年行っているエキシビション開発を実施できなかったことについては、少し心残りもあります。
シビックテック・ラボがエキシビションを行う理由は、「技術力を見せる」ためではありません。
- こうしたコンセプトの立て方もある
- プレゼンテーションでは、ここを意識すると伝わりやすい
そうした考え方やプロセスを共有すること自体が、コミュニティへの還元だと考えているからです。
これまで多くの現場で得てきたノウハウを、少しでも次の挑戦者へ手渡していければ、という思いは変わっていません。
「作れる」は、すでに前提になった
今回、特に印象的だったのは、**全チームが当たり前のように「作れていた」**ことです。
開発の進行もスムーズで、時間に余裕があるように見えるチームも少なくありませんでした。
スライド作成にCanvaを使うチーム、AIツールを自然に組み込むチーム。
「AIと共存すること」が特別なことではなく、制作の前提条件として定着し始めていることを実感しました。
これは、とても良い変化だと思います。
アウトプットの質は確実に底上げされ、表現の幅も広がっていました。
では、何が評価の軸になるのか
「作れる」が前提になると、次に問われるのは何でしょうか。
それは、特定の技術力そのものではありません。
- 必要な技術を見極め、適切に組み合わせる調整力
- 何を問うべきかを見抜く問い立ての力
- 仮説を裏付けるためのリサーチ力
- そして、何を作り、どう伝えるのかという編集力
今回のSPAJAMでは、特にリサーチの深さという点で、まだ伸びしろを感じる場面もありました。
細かな技術要素については、実装できているかどうかがすべてです。
ダイクストラ法であれ、遺伝的アルゴリズムであれ、目的に対して正しく機能していれば、それで良い。
技術は手段であり、価値を生むのは構成と意図です。
課題解決か、エンターテイメントか
SPAJAMには、大きく二つの軸があります。
- 社会や生活の課題を解決しようとするアプローチ
- 表現したい世界観や体験を突き詰めるエンターテイメント性
理想を言えば、両者が統合されることですが、どちらかを徹底的に突き詰めるのも、もちろん正解です。
課題解決はデザインの領域であり、
表現したいものを形にするのはアートの領域です。
どちらが正しい、優れている、という話ではありません。
真面目に課題解決に向き合うプロジェクトもあれば、
酒器をつくるように、純粋な表現としての創作に振り切ることもある。
それぞれのチームが、自分たちの「立ち位置」を自覚しているかどうかが重要なのだと思います。
開発中こそ、外と話そう
SPAJAMの価値は、開発そのものだけではありません。
開発中に、審査員やスポンサー、他チームと対話することも、大きな学びになります。
夕食時や休憩時間に相談を受けることもありますが、
それは単なるアドバイスではなく、仮説検証の機会でもあります。
今回、印象に残っているのは
「まずは破壊的に突き抜けて、あとから引き算すればいい」という話です。
なぜなら、
- 突き抜けたからこそ見える景色がある
- 世界観や哲学は、無難な積み上げからは生まれにくい
歴代の優勝チームには、必ず「思想」や「イメージ」がありました。
それを生み出す起点が、「突き抜ける」という選択なのだと思います。
なぜ、シビックテック・ラボはスポンサーをしているのか
シビックテック・ラボは、Google様、ガンホー様と並び、SPAJAMのプラチナスポンサーとして関わっています。
理由はとてもシンプルです。
コミュニティから受け取ったものを、コミュニティに返すため。
私たちのような小さな組織にとって、
ロゴを掲示したり、パンフレットを配ったりすることが、直接的な宣伝効果を生むわけではありません。
また、私たちの事業そのものが、ある意味ではCSRに近い性質を持っています。
それでもスポンサーを続けるのは、
人を育て、場を育てることが、結果的に社会を育てると信じているからです。
ハッカソン中の質問対応、質疑応答での視点の提示、
懇親会でのフィードバックや壁打ち。
できる限り、参加者の魅力が引き出されるような関わり方を心がけています。
AI時代に、何が本当に問われるのか
AIを使えば、ある程度のものは誰でも作れる時代になりました。
だからこそ、これから大切になるのは、
- なぜ、それを作るのか
- その「なぜ」に、実装や表現は応えているか
あるいは、
- 理屈抜きで「面白い」と言い切れるものを、どこまで突き抜けられるか
技術やデザインの巧拙だけではなく、
問いと意図を持った創作が、より強く求められていくはずです。
コミュニティと、継続的につながるということ
SPAJAMの参加者の中には、
かつての参加者が、いまはスポンサーや審査員として関わっている姿もあります。
それは、次の挑戦者にとってのロールモデルにもなりますし、
「自分もいつか」という想像力を育てます。
一度きりのイベントで終わらせず、
仕事に戻ったあとも「あの人がいたな」と思い出せる関係性が、
新しいつながりや挑戦を生み出していくのだと思います。
すぐに成果を求めるなら、遠回りに見えるかもしれません。
けれど、富を得て散じること、まず与えることは、
長い目で見れば、確実にコミュニティを強くします。
だから、スポンサーになろう
SPAJAMが続く限り、シビックテック・ラボも関わり続けるでしょう。
祭りは、一度きりでは終わりません。
カオスの中からこそ、新しい何かは生まれます。
その場に集う人たちと、一緒に考え、作り続けたい。
それが、私たちのスタンスです。
……とはいえ、正直なところ。
やはり、自分でも何か作りたかった、という気持ちは残ります。
来年こそは、仕事をうまくコントロールして。
参加者のステージの、片隅にでも立てるように。
そう思いながら、今年のSPAJAMを終えました。